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イトーヨーカドー
労働組合
中央執行委員長

渡邊 健志

両利き活動の 実践による
新たな道の創造

イトーヨーカドー労働組合
中央執行委員長

渡邊 健志

Ⅰ 取り巻く内外の社会情勢と環境変化

これまで3年以上にわたって、私たちの生活や仕事、組合活動に大きな影響を与えた新型コロナウイルス感染症は、感染症法上の分類が2類相当から5類に移行し、いよいよ本格的にアフターコロナという社会の中で活動を進めて行く段階に入りました。それと同時に私たちのまわりには取り組むべき多くの課題があります。加速度的に減少を続ける国内の人口と労働力不足の問題、日本経済の好循環に向けた生産性向上とこれを軸とした賃金の引き上げ、そして、国内外問わず待ったなしの状況にある地球温暖化対策などの地球環境問題に対応していく「GX」と、二酸化炭素など温室効果ガスの実質排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」達成のための経済社会システム全体の変革、労働環境においては急速に進展する「DX」対応にしっかりと取り組んでいくことが企業の存在、社会的価値に直結する時代であることからも、その位置づけはたいへん大きなものとなってきています。 また、世界に目を向けると、欧米先進国の需要回復とロシアによるウクライナ侵略が引き起こしたエネルギー・穀物価格の高騰などにより、世界的な物価上昇と為替の急激な変動が発生しました。この影響を受け、国内においても原材料価格やエネルギー価格が高騰し、昨年から明確な物価上昇局面となっています。諸外国と比較すると、まだまだサプライチェーンにおける価格転嫁が十分に行われていないというのが実態だと思います。世界的な大きな課題と局面であることから考えても、今年限りで解決するものではありませんが、今年を機に中長期的な視点を持って国や行政は無論、産業や企業も参画し国内全体で、将来を見据えた取り組みが求められることになると思います。 このようにグループを取り巻く環境は、過去以上にスピードが加速しつつ大きく変化をしています。国内においては高齢化・単身化・共働き化などの社会構造の変化の加速により、お客様の行動様式や価値観が変化し、食品に対するニーズも一層多様化しています。一方、最低賃金の上昇や社会保険加入を受け、雇用環境は引き続き厳しい状況が続くことも想定されます。加えて、先程も触れましたが国内外を問わず、気候変動・海洋汚染・フードロス・持続可能な調達などの社会問題が深刻化しており、私たちも社会を構成する一員としてその解決に向け、これまで以上に真剣に向き合わなければならない時代を迎えています。

Ⅱ 変化に応じた グループシナジーの発揮を

グループの2023年2月期決算は営業利益5,065億円(前期比130.7% +1,188億円)、EBITDA 9,953億円(前期比132.4% +2,438億円)、ROE8.7%と当初計画を0.8ポイント上回る結果となりました。今期の見込みは営業収益11兆1,540億円、営業利益は5,130億円、EBITDAは前期比146.8億円増の1兆100億円と公表されています。 先述した私たちを取り巻く環境変化を踏まえた、グループの経営戦略としてはこれまで培ってきた「食」の強みを軸に、国内外コンビニエンス事業の成長戦略にフォーカスし、最適な経営資源の配分を実行しながら、「食」を中心としたグローバル・リテール・グループに成長することが、グループの中長期的な企業価値を最大化するものとしています。この経営方針に沿った具体的なアクションプランとしては、国内外コンビニエンス事業の成長戦略の加速と、スーパーストア事業の抜本的変革の断行の進捗をモニタリングしながら、最適なグループ事業構造・戦略的選択肢の継続的な検討を行う体制を構築し、その取り組みを進めています。特に首都圏に集中するスーパーストア事業の持つ調達力やサプライヤーネットワーク、そして現在整備を進めているインフラを活用することで、スーパーストア・コンビニエンスの両事業の成長に繋げていくとしています。 金融関連事業の再編については、銀行業務を担うセブン銀行とノンバンク業務を担うセブンカードサービスを一本化し、グループ共通の会員基盤である、7ⅰDを活用して流通小売グループの強みを活かしていきます。そのことで、これまで以上にスピーディにお客様のニーズや期待に応えられるようサービスを拡充させグループの企業価値向上をめざしていくとしています。また、持続可能な社会の実現に向けた取り組みとしては、2019年よりスタートした「GREENCHALLENGE2050」の目標達成に向け、CO²排出量削減、プラスチック対策、食品ロス・食品リサイクル対策、持続可能な調達の4つのテーマを掲げ推進しています。

Ⅲ 新たなイトーヨーカ堂のめざす姿

2023年9月1日より、(株)イトーヨーカ堂を存続会社、(株)ヨークを消滅会社とする合併契約を締結し吸収合併が行われ、新たなイトーヨーカ堂として船出をしました。この度の企業統合・合併の目的の一つは社内外から迫られている「スーパーストア事業の変革」を完遂し、規模と収益ともに国内トップクラスのポジションを獲得していくこと、そしてもう一点は、IY・YOが一体となり、双方が持つ強みを活かしお客様ニーズに一層近づき対応していく事による競合との差別化とムリ・ムダ・ムラを排除し収益成長を実現させていくことにあります。 統合・合併以前より持つ両社が抱える共通課題は「他社にない商品・MD展開や価格に関するお客様の評価が低いこと」にあります。この課題を克服していくためには「差別化商品の品揃え強化」と「価格認知を浸透させること」で顧客価値を追求する必要があります。具体的なアクションとしては、仕入れ統合による原価低減をより深耕させていくことや、PBを始めとするMD・カテゴリーの強化を深化・追求すること、またその上で、現在ビジネス構造上両社が抱える最大の弱点である製造機能を「ピースデリ」を活用することで、あらゆる点での生産性向上と差別化商品の品揃えと質向上に取り組んでいくことにあります。 これを行うためには投資が必要であり、その原資は適正な経費構造と生産性改善により創出していかなければなりません。その投資によりスーパーストア事業の提供価値を高め業績向上と生産性向上に繋がる循環を実現し成長していくことがWillChangeがめざすものであり、そのための企業統合です。統合によるメリットは新規出店や規模を活かした原価低減などに加え、YOの持つローコスト運営やIYでのDXツールを双方で活用できることにあります。 現在、進めている時限的なトランスフォーメーション(=変革)に取り組んでいく上で、簡単に進まない問題や難しい課題はありますが、取り巻く経営環境と変化のスピードを考えれば、企業体力のある今、先送りせず、何としても乗り越えなければならない最大のミッションだと捉えています。私たちが迎える今日の時代環境下では、痛みを伴う改革が必要となることも経営状況を正しく認識した上で協議を通じて対応していかなければなりません。 これまでも、取り巻く環境変化と正しい認識を踏まえ厳しい判断にも対応してきました。ただし、その経営判断には、社員が将来を描ける「企業の成長戦略」を同時に示すことが不可欠です。そのことを前提に、2025年度までの残り2年半の時間軸の中で「お客様ニーズに対応した商売のできる、社会的責任と価値ある新たな企業づくり」をめざして、全社一致、労使一丸となり取り組んでいきたいと考えています。

Ⅳ 変わらぬ労働組合の基本姿勢

労使慣行とされる「生産性三原則」は1955年の閣議決定以降、日本経済の成長と発展を支えた生産性運動を通じてこの50年間で国内GDPを58倍に押し上げました。90年代以降は、行き過ぎた規制緩和や過当競争により低水準になっていますが、この日本の成長を支えてきた労使慣行が持つ可能性は、持続可能な経済社会システムづくりを為し得るものだと広く考えられています。 私たちIY労使においても「雇用の維持と拡大」「労使の協力と協議」「成果の公正な配分」といった生産性運動の三原則に立ち返り、現状の社会環境に照らし合わせた今日的な意義を、対話や協議の軸に置いた関係であり続けなくてはなりません。 消費・マーケットが飽和し産業が成長基調にない現状において、とりわけ重要なことは事前の労使協議と対話だと考えています。経営資本の考え方が変わりつつある中、労使が変わらず対等、且つ信頼と誠実の関係を保つためには、継続的に協議を重ねるとともに労使相互の正しい理解が必要です。今の時代は、個々人が多くのチャネルから情報収集できるのと同時に、情報の発信・氾濫する時代でもあります。雇用することへの責任に真摯に向き合い、より丁寧且つ誠実な対応をしていくことが、社会的価値を意識した企業経営に、大変重要なファクターであることを労使で認識しておかなければならないと考えています。 私たち小売業は、ビジネススタイルが環境変化に応じて変わる部分も出てきますが、基本となる労働集約型産業(マンパワー産業)であり続けることは変わりません。マンパワーとは一体何を指しているのか、一般的には「労働力」ということだけを言われますが、この「労働力」には、それぞれがこれまでの経験の中で培ってきた「商売人としての知恵やアイデア」も含まれると考えていますし、それらすべてを含むマンパワーこそが「生産性を高めていく行動」に繋がるのだと思っています。そして、それを引き出すためには会社や職場に対して社員がどのくらい「エンゲージ」するかが鍵を握っています。「自分の仕事や役割に対して充実した気持ちで働けているのか」、「IYで働くことへのモチベーションを維持しているのか」がとても重要なことです。では、どういった状態や環境がそのことを可能なものにするのか。社員が会社にエンゲージする要素は幾つかありますが、取り分け重要なファクターとなるのは、 1、将来性・納得性の高い人事処遇・評価制度の構築 2、任せる・褒める・認める環境や企業文化づくり 3、社内コミュニケーションの活性化 4、ワーク・ライフ・バランスの環境整備 5、キャリア開発の支援と機会づくり このことが、「ワーク・エンゲージメント」を高めるものであり、このことへの具体的な施策に取り組むことが「従業員エンゲージメント向上」の答えでもあります。また、これらのことに取り組む過程で、企業理念やビジョンの理解と浸透が図れるのだと思います。では具体的な施策を決めて、スピード感をもって、着実に成果に繋げていくにはどうあるべきか。それは労使が現場課題に目を向け続け、労使双方が相手の立場や方針・方向性を正しく理解・認識した上で、話し合いと改善行為を継続して実行し続けることです。基本的に会社は「トップダウン組織」、組合は「ボトムアップ組織」であり、労使がめざす目標やあるべき姿の実現には、この双方の役割をしっかりと果たすことがとても大切なことです。そのためにも、生産性三原則の考えにある「事前労使協議」の質向上は欠かせないことです。私たちは如何なることも「何のために、誰のために、どうする」という事を、常に考える力を養い持ち続け、活動や仕事に取り組むべきと考えています。

Ⅴ 両利き活動の実践による 新たな道の創造

商売の原点は「お客様」であり、私たちIYの理念は伊藤名誉会長の「信頼と誠実」と鈴木名誉顧問の「変化への対応と基本の徹底」にあります。そして、組合活動の原点は「支部や組合員」にあり、その基本は「涸れた井戸から水は汲めない」にあります。IY労使が持つ基本姿勢は私たちが存続する限り不変です。大きな変革を求められる時代に、私たちが克服すべきことは「固定観念からの脱却」です。個々が意識や行動を変えることなくして、新たな道を創造することは出来ません。ここで言う「道」とは、「IYという企業として、IYに働く社員として、小売業・商売として」とすべてを指しています。そのすべてが目的や方向性を一致させることで、新たな道を創造することと共に、それぞれの価値を引き出し大いなる成果が実現されるのだと思います。また、労使で進むべき新たな道を理解・認識した上で何より重要なことは、組合活動を通じて、着実な成果に繋げていくための行為や行動を起こすことだと考えています。流通・サービス産業は、マンパワー産業であり一人ひとりが持つ能力を結集することで、大きな成果を生み出していく産業です。私たちの基本的考え方である「涸れた井戸から水は汲めない」の考えの根幹は、人の持つ潜在的な力を活かしていくことであり、それが企業の存在意義や価値を社会に広く示していくために欠かせない最も大切なものです。人材を活かす組織であり続けていくことが社会に評価され利益という形で私たちに返ってくるというのが、この考え方の本質です。いつの時代も、様々な変化があっても、私たち組織の原点と言える、この考え方に常に立ち返りながら、「両利き」という視点を持ち活動に取り組んでいきたいと考えています。両利きとは、右手も左手も利き手であるかのようにそれぞれがうまく機能する状態を意味しています。組合活動における両利きは「深化」と「探索」という活動が、バランスよく質の高い内容と状態で取り組めていることを指しています。世の中や環境の変化が著しい「不確実性・多様性の時代」の中で、前年踏襲の考えに基づく活動だけでは、その変化に対応できる組織づくりは叶いません。イトーヨーカドー労働組合における活動の既存の認知の範囲を超えて、更なる価値や成果に結びつく活動を創り出していく行為が「活動の探索」です。探索によって認知の範囲が広がり、新たな発想やアイデアを取り入れた活動に繋げていこうという考えです。その探索を通じて起こす活動の中から価値あるものを見極めて、それを深堀りし磨き込んでいく行為が「活動の深化」です。私たちを取り巻くあらゆる環境が大きく変革していく中、2024年度からは、こういった意識を持ち総合的な観点で物事を捉え(株)イトーヨーカ堂と(株)ヨークの企業合併に伴う労働諸条件に関する労使による確認と協議、IYの再成長を力強く支えることのできる強い組織づくりに挑戦していきたいと思います。変革の1年になりますが、環境変化を正しく認識した上で、組合員の皆さんの積極的な活動への参加・参画を宜しくお願いいたします。

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