イトーヨーカドー労働組合
中央執行委員長
小鷲 良平
2024年3月、日銀は「マイナス金利政策」を解除し、金利を引き上げることを決めました。利上げは17年ぶりで、世界的にも異例な「金利のない世界」だった日本は、正常化に向けて大きく転換していきます。背景には、賃金の上昇を伴う形で物価が安定的に2%上昇する「賃金と物価の好循環」が見通せるようになったとの判断があったとされています。コロナ禍で疲弊した経済活動、また国際紛争等々の影響を受け、モノの価格が上昇したことを契機に、事実、生鮮食品を除いた消費者物価指数は、2022年4月から今年まで、長期にわたり日銀が目標とする2%の水準が続いています。このような急速な物価上昇が続くなか、経営者側の意識にも変化がみられ価格転嫁への動き、何より賃金引き上げについては前年に引き続き、30数年ぶりに高い水準の結果となりました。これは一方で、人手不足の中で優秀な人材を確保したいという『人財資本』という動機も加味されています。現状の実質賃金は物価の変動を受け依然マイナスと追いついていない状況にありますが、2024年中にはプラスに転じるという試算も出ているほどです。しかし、これは物価や生産性向上に見合う持続性が伴う仕組みにしていくことが肝要であり、人件費を含めたサプライチェーン全体の付加価値を適正に反映させた価格転嫁を実現することが必要です。現政権は2030年までに最低賃金を1,500円に引き上げる方針を打ち出しています。そして今後、金利が上がっていけば私たちの住宅ローン、企業活動における借入への影響、その他金融市場や為替市場への影響も少なくありません。深刻な環境課題や国際社会を取り巻く問題なども含め、現状の環境変化をさらに上回る事態を想定しておかなければなりません。
グループの2023年度決算は営業利益5,342億円(前期比105.5%+212億円)、EBITDA10,549億円(前期比106.0%+596億円)と過去最高益となりました。今期もまた最高益を見込む予想が公表されています。経営戦略として国内外コンビニエンス事業の持続的な成長を掲げ、経営資源を最適に配分しながら、「食」を中心としたグローバル・リテール・グループの実現を目指し、長期的な企業価値を最大化するとしています。戦略委員会の提言を踏まえた3つの領域での具体的なアクションプランのなかで、SST事業の株式公開化(IPO)に向けた検討を開始する意向が公表されています。CVS事業とSST事業の食品開発領域における協働体制を一定維持することを前提に、独自の財務規律のもとで成長戦略を強化する体制へ移行するとされています。一方、イトーヨーカ堂の2023年度の営業利益は▲IO億と、赤字予算は何とか達成しましたが、IY単体としては、営業利益▲IQ億円と予算未達であり、昨年差▲NS億円と非常に厳しい結果となりました。また、売上、荒利とも予算未達であり、特に売上と荒利の乖離については、IY・YO共通課題となっています。トップラインが上がらない中で、水道光熱費の削減を中心とした経費削減の取り組みや、生産性改善による契約時間外労働の削減等で、何とか利益水準を維持している状況です。今後もグループにおける戦略委員会は、各事業会社の取り組みを含め重ねて再評価、方針のアップデートを繰り返しながら、多くのステークホルダーとの共感経営を推進しています。それぞれの事業会社は、社会における存在価値をしっかりと定め、全体に浸透させ、マンパワーを最大限に発揮できるよう取り組んでいかなければなりません。従前以上に労使による対話機会の設置や協議内容の質の向上が求められていくなかで、私たち自身もイトーヨーカ堂の未来像、そこまでの道のりと実現に必要な取り組みについて明確なビジョンを持っておかなければなりません。
【私たちの現在地とこの先の未来に必要なこと】
2025年度を迎えるにあたり、私たちの現在地をしっかりと認識しておく必要があります。強い信念を持って推進する構造改革により、イトーヨーカ堂はその形を変えています。事業所(店舗)数はもとより、業種は総合スーパー(GMS)からフード&ドラッグへ、マーケットニーズとそれに伴う経営方針、首都 圏に集中する資本、そこに求められる人材。…現状構成される人員の数とそれぞれの能力、雇用形態、年齢構成、そして社会的な潮流でもある働き方の変化。こういった状況のなか改めて問う私たち企業別労働組合の存在意義は、組合員の雇用、生活、労働条件を守ることにあり、このことは過去も未来も変わることはありません。「人財資本」と呼ばれることが珍しくなくなりましたが、資本の中心は人にあります。そしてその責任を全うするには、企業が永続的に発展し、安定的に利益を出し続ける以外にありません。これこそ、「涸れた井戸から水は汲めない」という結成当初から継承される基本的な考え方ですし、その根幹にあるのは労使による懸命な生産性向上活動であり、健全な労使関係の構築です。
【組合員の参加こそが内外に示せる組織力】
健全で対等な労使関係を構築していくために、私たちに求められることは、常に会社から信頼してもらえる組織であるということです。そして信頼になりうるものとは、多くの組合員が活動に関与(参加・参画)し、正しい現場実態を常に把握している状態にあること、加えてこの先の課題を解決する力(自らも行動する意欲)を持っていると示し続けることであり、組合員の参加=組織力であるという基本なのです。
【現場との対話・会社との対話・社会との対話の重要性】
課題解決への行動が生産性向上の力になること、これは現場実態を会社に伝えるだけでは成し得ません。推進力を得るためには解決に向けた提案と意思を示すことが重要です。お互いの立場を尊重しつつ、労使の対話を重ね、チャレンジに変え、結果に繋げていくことであり、こうしてお互いの信頼を積み重ねることでしか健全な労使関係は築けないのです。そしてその交渉力は私たち同士のコミュニケーションの充実の上に成り立ちます。対話の中から相手の多様性を受け入れ、自己革新を重ねた先に「新たな現場力」を生み出していきましょう。
【2025年度活動に向けて】
2025年度は前述したとおりの環境変化が想定されるなか、私たちは予期せぬ事態にも対処ができるニュートラルな姿勢でいることが求められます。ニュートラルな状態というのは、瞬時に右にも左にも踏み出せるバランスの取れた態勢であり、必要なことは「正しい情報」と「先見性」です。その態勢を整えるために、2025年度は支部・現場により近づいた活動を推進していきます。昨年までの規模別から地域別(エリア)のゾーニングに活動の基盤を変え、「支部活動」の推進、サポートが出来る体制を整えます。2025年度はイトーヨーカ堂の未来を左右する重要な年と位置付けられています。組合活動も営業活動も、力の源泉がそこにある以上、その先の会社再成長を軌道に乗せられるかは現場の力にかかっています。掲げられる目標を達成していくために、定性的、定量的に検証が行われますが、これは言い換えれば「結果と成果」の検証なのだと思います。結果とは赤字か黒字か、上がったか下がったかといった、良くも悪くも事態の結末であり、成果とはそのプロセスのなかで得られる経験値として、失敗からの教訓も、チャレンジをしたことに対する自信も、次の結果に繋げていくためのキャリアの積み上げなのです。目標を達成する結果に拘りながら、チャレンジをして成果を積み上げることで「新たな現場力」を蓄え、生産性向上の原動力に変えていきたいと考えています。私たちの活動の原点は支部です。そこに集う組合員同士が、支部組織が信頼で結びつき、困った時には声を掛け合い、助け合い、力が必要な時は自分たちの意志で立ち上がり現場力を高められる、そんな「一支部一組合」を目指していきたいと思います。これまで経験したことのない多くの判断を求められる環境下において、それぞれが自律し、仲間に信頼を寄せ、信念と責任を持って決断をしていかなければなりません。対話を重ね実現力を高められる組織を目指し、中長期的な取り組みを推進していきたいと思います。これまで以上に、組合員の皆さんの積極的な活動への参加・参画を宜しくお願いいたします。
2025年度活動の重点となるポイント | |
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01 | 組織統合(IY・YO)を視野に入れた協働と共創 |
02 | 経年の取り組みから、この先の取り組みに繋がる 社会変革を意識した賃金交渉 |
03 | 政策実現に向けた夏の参議院議員選挙の必勝、計画完遂 |
04 | 変革を求められる時代における、 未来を見据えた労働組合組織の強化と拡充 |
05 | 全ての取り組みの推進力を高める労使対話(協議)の充実 |